おひとりさまの食生活 ~おやつと夕食編~

前回までのあらすじ:
早朝から朝食・弁当作りというハードなミッションをコンプリートしたおひとりさま。
果たして今日も無事に敵と戦えるのか?
おひとりさまの食生活 ~朝食および弁当編~

チョコレート

白々と明けていく空を電車の中から眺めながら、私は沈鬱な気分に陥っていた。
原因はわかっている。
たったひとつ、完璧な朝にたったひとつの汚点がついたのだ。

コーヒーを飲み損ねたのだ。

食器洗いに時間を取られ過ぎた。何事も手際よくこなすのが信条のおひとりさまとしてあるまじき失態。痛恨の極み。

白状しよう、私はカフェイン中毒だ。
どんなに眠くて頭にぼんやりと霞がかかっていようと、カフェインを摂取すればたちまちしゃっきりぽんとなる。
おひとりさまの朝は早い。そして眠い。
朝からおひとりさまの活動を滞りなく進めるには、カフェインの力が必要だ。

だが心配は無用だ。現代日本ではコーヒーはいとも容易く入手できる。
それを見越してコーヒーを飲むのを後回しにしているのだ。できるおひとりさまはミッションに優先順位をつける。さもなくば膨大なミッションに埋もれて窒息してしまうだろう。

あるときは、組織(会社)の近所のコーヒーショップで。
またあるときは、コンビニで。
ときには自販機で。
私はそのときの持ち時間と気分に相応しいシチュエーションでコーヒーを買う。
願わくば、気の利いたオヤジがバリスタをやっているバールでエスプレッソを引っかけたいものだが、あいにく組織の周辺にはそんな店はない。
なあに、糖分たっぷりの缶コーヒーもぼんやりした頭にガツンと効くから悪くはない。

コーヒー

コーヒーのおかげで、午前中のおひとりさまのミッションは実にスムースに片づいている。
オーケイ、順調だ。何の問題もない。
しかし魔の手は音もなく忍び寄ってくる。

その正体は、空腹。

考えてもみろ。私が朝食を摂ったのは朝4時台だ。
10時の時点で5時間は経過したことになる。それで腹が減らないわけがない。
昼食時間まではまだ2時間もある。この空きっ腹を抱えてこの2時間を乗り切れるのか? 欲望に素直になって何か食べた方がよくないか?
ほら見ろ、血糖値が下がって手が震えているじゃないか。この状態でおひとりさまたる成果を上げられるのか?

そんなとき、私はチョコを食らう。

…白状しよう、私はカフェイン中毒であり、チョコホリックでもある。
燃料切れで怠くなった身体も、チョコをブチ込むと途端に張り切り出す。視界は4K並みに鮮やかになる。
私はおひとりさまだが、後ろ暗いことはしない覚悟を持っている。笑うがいい、おひとりさまのくせに今さら世間の何を気にしているのかと。だが、ささやかな幸せを守る市井の人間を笑う勇気は、私にはない。
だから合法であるコーヒーやチョコに溺れる程度のことを咎められる筋合いはない。煙やクスリに比べたら可愛いものじゃないか。

ミッション中のチョコ補給には、ガルボミニを重宝している。
一思いに口に放り込めるサイズ、手につかない質感、噛み応え、全方位的に素晴らしい出来だ。
私があまりにも重宝するから、組織の売店のおばちゃんが「りんむさん、ゴメンねー。今日は抹茶味は入荷してないんだ」などと気を回してくれるほどだ。
兵站の不備は懲罰委員会ものだが、私が最も愛している武器は「ほろにがブラック」だからノープロブレムだ(だが抹茶も抜かりなく補給してほしい)。

ガルボミニで命を繋ぎ、無事に弁当タイムを迎えることができた。
早朝のミッションを完璧にこなした成果が白日の下に晒される瞬間だ。

調理から食事まで時間がある場合、醤油麹が活きてくる。
あいつは調理してすぐ食べても味わいがない。漬けて寝かしてじっくり待ってこそ真価が出る。弁当は嫌でも数時間寝かせることになるから、醤油麹を配置する場として最適だ。
お前は一口食べて驚きに目を剥くだろう! これが今朝味見したおかずと同じものだというのか!?
私は醤油麹を讃えながら弁当を噛みしめる。早朝のミッションをこなした甲斐があるというものだ。
誰が味わうでもない。私しか知らない味。それでいい。これがおひとりさまというものだ。

組織からの帰り道、私は今日一日を振り返る。
今日はいつになく集中力が必要な日だった。危うい橋も渡った。腹立たしいこともあった。そのせいで、ついガルボミニの食べ切りパックを食べ切ってしまった。
さすがにまずい。カロリー過多だ。今日はスポーツジムへ行かねばならん。

私のこんな生活を「毒を飲みながら解毒剤を打つようなものだ」と嘲笑う友人がいた。
一晩にウォッカを一瓶空けてしまうようなアル中寸前のあいつには言われたくない。
あいつは元気だろうか。酒に溺れていないだろうか。もしお互いの任務を無事に乗り切れたら、また顔を合わせて昔話でもしたいものだ。
そのときには大手まんぢゅうを手土産にしてくれていい。
いや、ぜひ手土産にしてくださいお願いします。

……白状しよう、私はチョコホリックのうえに、餡子にも心酔している。
駅で手軽に買える系の饅頭の中では、大手まんぢゅうに並ぶものはないと固く信じている。
あの極限までの皮の薄さ。餡子中心主義の権化。金つばだってもう少し皮はあろうものを!

以前は、この手の饅頭の最高峰は納屋橋まんじゅうだと思っていた。蒸し立てのふっくら感と芳醇な酒の風味。
だが、大手まんぢゅうに出会って私はいとも簡単に主義主張を翻してしまった。
以来「納屋橋」という単語を見ると、甘酸っぱい初恋を思い出すかのように胸が痛む…。

過去の裏切りに心を痛めているうちにアジト(自宅)に到着する。
昔のことは忘れて、今日最後のミッションを完遂しよう。

ストウブの小さなココットに食材を突っ込む。冷蔵庫に入っているもの、何でもいい。野菜やキノコをたっぷりと。鶏肉・白身魚・豆腐などのタンパク質も抜かりなく。
少し水を足してココットを火にかける。野菜から水分が出るからガバガバと水を足すのは感心しないな。野菜の旨味が凝縮した水分を待て。待つこともおひとりさまの重要なスキルだ。

それから、その日の気分に合わせて味をつける。
これも何でもいい。コンソメ、鶏がら、白だし、あっさりと塩だけでもいい。
おっと、入れる量は少しでいい。お前は食材を何だと思っている? 奴らは勝手に旨味を醸し出す。調味料はそれを助ける程度で充分だ。

しばらく経てば、具材たっぷりスープ、あるいは蒸し煮が出来上がる。
味が足りないと思えば、胡椒や七味をちょいと振ってやればいい。
炭水化物? 若い娘っ子でもあるまいし、夜に炭水化物を過剰に摂取することはない。ジムに行かない日ならまったく摂らなくても問題はない。
筋トレ中に倒れるのはまずいから、ジムの前には一口二口米や春雨を食っておく。それで充分だ。

インストラクターの野郎は、筋肥大のためには運動後にタンパク質をがつがつ食えと言いやがる。
若い頃なら私もそれが可能だった。だが今は無理だ。老いた胃腸に大量のタンパク質を流し込むのは自殺行為だ。そもそもシュワルツェネッガーを目指しているわけじゃない。

今日も悪くない1日だった。
だが、油断はできない。明日も早朝からミッションが待ち構えている。
それがおひとりさまの宿命なのだ。

***

ワタシは豆から挽いて…なんてコーヒーの淹れ方をしないくせに、しばしば自宅で飲み損ねます。朝ねみーんだもん。

Nespressoが泣いている。

ストウブのココットGOHANのSサイズは、ひとり分のスープ作りにぴったり。

晩ごはんを食べ過ぎると、眠くなってジムに行く気がなくなってしまう。
スポーツジムはやはり効果あり。でも、もっと効果が出るのは。

投稿者:

りんむじんづ

間取図だけで3杯メシが食え、旅のためだけに日々労働し、美味しいものを好きなだけ食べられるようにジム通いに励む、そんなOLです。最近ブリティッシュショートヘアの男子との同居を始め、ますます極楽な生活を送っています。

3 thoughts on “おひとりさまの食生活 ~おやつと夕食編~”

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