7カ月齢の猫

ブリ男、生後7カ月。
我が家に来てからも5カ月になった。

猫
相変わらずカメラが嫌い

ブリ男のフードを物色するためにときどきペット用品店に足を運び、そしてつい仔猫のブースを覗いてしまうのだけど、2~3カ月齢のおチビちゃん達が跳ね回っているのを見ると「よくこんな落ち着きのない生き物を迎え入れる気になったな…」と5カ月前の自分に呆れる。

実際、家でキャリーケースを開けた途端飛び出て跳ね回るブリ男を見て「こんな弾丸毛玉、相手をしきれるのだろうか…」と途方に暮れたものだ。

それでも今まで狭いパーソナルスペースで過ごしてきた仔猫がソファのオットマンの上によじ登り、どーんと仁王立ちをして満面の笑みを浮かべた(ように見えた)とき、この子を幸せにしてやれる自信はないけれど精一杯のことはやろうと誓った。

 

5カ月間ワタシと暮らして、果たしてブリ男が幸せかどうかは本人が喋らないので知る由もないが、夕食後にテーブルに乗って熱心に洗顔し、ワタシの手を枕に寝てしまうブリ男を見るとそれなりに幸福なのではないかと勝手に推測している。

7カ月齢もなると行動は落ち着いたもので、「遊ぶ」「食べる」「寛ぐ」「寝る」とはっきりしている。

これが我が家に来たばかりの頃は起きているときはとにかく暴れ回りたがっていて、ずっとオモチャに挑みかかったりソファやベッドや床の上をぐるぐる走ったりしていた。
だんだん疲れて眠くなるけど遊びたい欲求も強く、本人はワケがわからなくなって「きゅるるるるっ」と鳴いて飛び回っている。眠くてグズる人間の幼児と一緒だ。

「ブリさんはね、眠いんだよ」などと言いながら抱っこし、部屋中を歩き回りながら子守唄や童謡を歌う。
よく歌ったのは「いぬのおまわりさん」だ。

間奏を口笛っぽく「てゅ~るっるっる てゅ~るっるっる」と歌うと、ブリ男が「何それ!?」とビックリしたような顔をしてワタシを見上げる。ヘタクソな鳥の鳴き真似みたいに聞こえて気になるらしい。
ブリ男の「えっ!?」って顔が面白くて、ワタシは「いぬのおまわりさん」を何度もリピートした。
何度も歌い、何度も間奏を入れる。1番の歌詞を延々と繰り返す。そして耳障りな鳥のような声で間奏を何度も歌う。
ワタシが歌っている間はブリ男の「きゅるるるっ」というグズりは止まって、そのうち落ち着いた。

先日、体重を量るためにブリ男をスリングに入れたらご機嫌になってしまったので、首から提げて部屋中を歩いてやった。
ふと5カ月前のことを思い出し、久しぶりに「いぬのおまわりさん」を歌うと、件の間奏でブリ男の瞳孔が開いた。

ヘタクソな鳥の鳴き真似のことは覚えていたらしい。
それがブリ男の幸せな記憶かどうかはわからないけど。

 

ブリ男が「きゅるるるっ」とグズりながら走り回るのをやめたのは、いつ頃だったろうか。
昼夜を問わずワタシに飛びかかってくることもなくなってしまった。

正確に言うと今でも「きゅるる」と言うこともあるし、飛びかかってもくる。
ただし、それはワタシがルーティンを破ったときだ。

月に1~2度、帰りが遅くなるときにペットシッターさんにブリ男の世話を依頼する。
シッターさんはブリ男の皿を洗い、夕食を出し、トイレとケージの掃除をして、猫じゃらしで遊んでくれる。
それだけ世話してもらうと、あとは特にやることはない。ワタシは帰宅してすぐに眠れるはずだ。

ところが、ブリ男はそれを許さない。
初めてシッターさんにブリ男を託した夜、ワタシが帰宅して少しブリ男を構い、それからすぐにシャワーを浴びてさっさと寝ようとすると、ブリ男の「きゅるるるるっ」が出た。
俺の世話をしないとは何事だ!

きゅるるる王子のご機嫌を損なわないためには、帰宅が遅くなってもいつものように猫じゃらしを振り回し、ゴハンを出して、ウンチをするブリ男を褒め称え、トイレを掃除すること。
この一連の世話をやれば多少ワタシの帰宅が遅くなっても平気らしく、落ち着いた様子で夜眠っていた。
でも、シッターさんにたっぷり夕食をもらっているのに「僕、何にも食べてなくてお腹空いちゃったの」みたいな顔で擦り寄ってくるのは、どうかと思いますよ。

 

おチビちゃんのときは多少は鳴いていたブリ男も、7カ月齢ともなると滅多に声を出さなくなってしまった。

ブリ男が鳴くのは1日に2度。

1回は、ワタシの帰宅直後。
警備の設備がリビングにあるので、ワタシはひとまずブリ男のいる部屋に入る。
このときはまだ手を洗っていないので、ブリ男が擦り寄ってこないときは「ただいま」と声をかけるだけで洗面所に向かう。

すると、リビングから仔猫の鳴き声がする。
…アッ ンアッ ンギャッ ンニ゛ャアッ ンミャッ フニャーァ!

お腹空いてるのに!
留守番してたのに!
なんでまた行っちゃうの!?

と、この世の終わりのようにブリ男が鳴く。
普段鳴かないだけに声を出すのがヘタクソで、余計に悲痛な悲鳴に聞こえる。

ワタシは洗面所から「お母さん帰ってきたよ! ブリさんがお腹空いたって知っているよ! ちょっと待ってね!」と大声で返事をしながら、大急ぎで手洗いうがいを済ませる。

着替えて再び部屋に入ると、ブリ男はワタシを待っている。
尻尾をピンと立てて喉を鳴らし、ワタシに何度も身体を擦りつけて、床に仰向けになって甘える。
少し前までは「俺に留守番させてバーカバーカ! ひとりで平気だもん!」とでも言いたげに、甘えもせずに爪を研いでいる日も珍しくなかった。
ブリ男が素直に「帰ってきてくれて嬉しい!」という態度を取るようになって(例えその真意が「やっとメシが食える!」だとしても)、ワタシを頼りにしてくれているように思えてホッとしている。

もう1度鳴くのは、ワタシがベッドに入って消灯した後だ。

暗闇の底からかすかな声で「……アッ」とワタシを呼ぶ。

慌てて灯りを点けると、ブリ男がケージの前で座り、ワタシを見ている。
トイレか、はたまた空腹か。
近寄って「ブリさん、何の用事?」と訊いても、ふいっとワタシから離れてしまう。

それを数夜繰り返した後、ブリ男に呼ばれたときに彼の傍の床に寝転んでみた。
床に寝るなんて、実家の炬燵で昼寝して以来だ。ひんやりした固い感触は思ったより悪くなく、盛夏にブリ男がしょっちゅう床に伸びていた気持ちがわかった。

果たしてブリ男はワタシが寄ってきて寝っ転がったのが嬉しいらしく、喉を爆音ぐるぐるさせ始めた。あまりにも鳴らすから鼻がぶーぶーいうし、ときどき鳩のように「くるるっ」という音を立てる。
そしておもむろにワタシの頭にしがみつき、爪で髪を漉いてから毛繕いを始めた。

どんな長毛種よりも長いワタシの毛はブリ男の舌に絡んでくちゃくちゃになる。
その感触が不愉快らしくブリ男は必死な顔をするけど、喉のぐるぐるは鳴り止まなかった。

 

ワタシが寄ると喜ぶくせに、ブリ男は宵の口はひとりで眠りたがる。

ベッドに連れ込んでも「まだそんな気分じゃない」とばかりにベッドから飛び降りてしまう。
静かにオモチャを転がしたり、物見台で夜の街を眺めたり、ときにはキッチンにこっそり乗って(本人はバレていないと思っている!)ワタシの寝姿を見下ろしている。
そして、床とか椅子とかテーブルとかテントとかキャリーバッグとか思い思いの場所で寝る。

ブリ男が来てからワタシは夜中に目を覚ます癖がついてしまった。
ベッドの上を見回しても、白とグレーの可愛い毛玉は見当たらない。
「ブリ男」と暗い部屋の中に声をかけ、ワタシは再び枕に頭を戻す。

すると、「ニャッ」と言いながらブリ男がベッドに上がってくる。
やっと呼んでくれた! とでも言いたげに喉を鳴らし、ワタシの頭の左側で丸くなる。
ワタシは片腕をブリ男のツヤツヤの背中に回し、片方の手でブリ男の儚げな手触りの顎の下を撫でる。
ブリ男はそのうち肉球でワタシの手を押し返し、それからその手にしがみつく。
そしてベッド中をあちこち移動しながら、朝までワタシと過ごす。

 

本格的に暑くなった頃、ブリ男はワタシの膝に乗らなくなってしまった。
たまに無理矢理膝に乗せると力を抜いて身体を預けてくるときもあるけれど、そのときは「ふー」と特大の溜息をつく。

膝乗り猫に憧れていたワタシにとってこれは淋しいことだった。
でも仕方がない。ワタシにつかまると歯磨きとか爪切りとかろくなことがないから。
それに大して広いわけでもない。ぴーんと伸びて寝るブリ男には狭いのだろう。

膝には乗らないけど、ワタシの傍には常にいる。
PCを触っていればテーブルの上に。料理をすればキッチンの床に。
ときどき「アッ」と鳴いてワタシを呼び、明け方は寄り添ってベッドで眠る。

甘え下手な子には、これが最大限の愛情表現なのだろう。
膝に乗らなくても、なでなでのおねだりがなくても、ワタシが傍に寄るだけで喉を鳴らす。それで充分。

ほとんど大人になってしまった7カ月齢の猫に、今日も癒されて暮らしている。

猫
これが

猫
これである。
大きくなったなあ。

投稿者:

りんむじんづ

20代で購入したマンションは、無事にローンを完済したかと思ったら売り払い、30代でまたまたマンションを買いました。好物はマンションの間取り図。旅とグルメにも目がありません。ブリティッシュショートヘアの男子(ブリ男)との同居を始め、ますます極楽な生活を送っています。

6 thoughts on “7カ月齢の猫”

  1. りんむさま
    初めまして。以前よりブログ拝見させて頂いておりました。私もアラフォー独身女性ながら昨年、1LDKの新築マンションを購入しました。ネコちゃんとの暮らしにも憧れておりましたが、実家で犬を飼っていた経験しか無いこともあり、りんむさんがブリ男ちゃんを迎えられたのを見てうらやましく思いつつも「私には無理だな…」と思っておりました。

    ですが、なんの巡り合わせかこのたび我が家に3ヶ月のメインクーンの女の子がやってくることになりまして!思わずりんむ様にコメントさせて頂いております。緊張とプレッシャーと楽しみで、今から寝不足になってます。(笑)

    今まで以上にりんむ様のブログを食い入るように読ませていただくことになると思います。どうぞよろしくお願い致します。

    1. きりんサマ
      はじめまして。
      コメントありがとうございます!

      マンション購入&メインクーンちゃんとの同居おめでとうございます!

      緊張とプレッシャーで寝不足、あるあるです笑
      しばらくは昼間フラフラでした。
      今でもちゃんと健康に長生きさせてやれるのかという心配は尽きないのですが、毎日可愛く甘えられると頑張ろうという気になれます。

      猫飼い初心者仲間として今後ともよろしくお願いしますね!

  2. ブリ男さんが世界で一番シアワセ、お顔がそう語ってます。
    12歳になろうとする我が家の男の子は歳のせいか最近不安定で心配が尽きません。そういう時にも精一杯、一緒にシアワセになるんだって自分に言い聞かせてます。愚痴ぽくてごめんなさい。
    にゃんこさんは比較しないから、いっぱい大切にしていると最大の愛情を返してくれると思います。仕事が忙しくてシッターさんに頼ったり、一泊のお留守番をお願いしても、帰宅したら目一杯のお出迎えで癒されます。帰宅後の一連の儀式、ブリ男さんはとってもシアワセを感じてますよ。

    1. yukiサマ
      にゃんこは比較しないから!
      確かにそうです!

      ウチじゃなきゃもっと広いおうちだったりもっと人間に構ってもらえたり幸せだったかもな…なんて思うこともありましたが、ブリ男はワタシしか知らないですもんね。
      ワタシの精一杯で可愛がってやります。

      ペットが歳を取ると心配が尽きないですよね…。
      今から覚悟しているつもりですが想像するだけで心が潰れそう。
      しっかり心構えして、ブリ男には平穏に猫又になってほしいです。

  3. 初めてコメントさせていただきます。
    いつも上品で美しい猫ブリ男さんの記事を楽しみにしております。
    今回は、デカい生き物(失礼)とブリ男さんの崇高な愛情物語を読ませていただき、感動がじんわりと押し寄せウルッとしてしまいました。
    前足ハムハムお顔グルーミング動画が大好きで、何度も見返しています。
    素敵なお二人の関係を垣間見せていただくことを楽しみに、また通わせていただきます。

    1. メリルサマ
      コメントありがとうございます。

      実態はあまり崇高な関係でもなく、デカい生き物もっと遊べよ〜! としょっちゅう背中をぽすぽす叩かれてます笑

      前足はむはむ可愛いですよね!
      あれを目の前でやられるとキュンキュンします。
      休日はずっとブリ男を眺めていても飽きません!

      今後ともよろしくお願いしますね。

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