私の目の前にはカツ丼が置かれている。
正確に言うと、ただのカツ丼ではない。カツ丼定食だ。
根菜とネギがたっぷりの味噌汁が入った椀と、申し訳程度に柴漬けが乗った小皿、それらが1枚の盆に共存している。
しかし何と組み合わせたところでカツ丼が怯むはずがない。
大振りの丼にどっかりと米が詰まり──そしてそれが決して上げ底ではないという確かな重量感を持っている──、その上には熱々の分厚いカツと、それを包む出汁の香りがする卵、それから色鮮やかな三つ葉と、カツ丼の威風堂々たるや柴漬けなぞ歯牙にもかけぬといった風情。
豚の甘い脂身はとろんと半熟になった卵の黄身に包まれて、私に食べられるのを待っている。
私はそれを箸で上品につまむか、あるいは匙で豪快にかっ込むか、丼から上がる湯気の中で逡巡しているのだ。
だが、私の手がしばし止まっているのは、箸匙問題のせいのみではない。