ある夜のことでした。
鼻歌まじりに湯船に浸かり1日の疲れを癒していると、浴室の外から妖しい光が見えるではないですか。

ワタシは長風呂なので、入浴中は洗面所の灯りを消します。
暗い中、浴室の電灯だけ点けている。
この部屋に住む人間はワタシだけ。それなのに、浴室以外の照明が勝手に点いたのです。
恐怖を堪えて濡れたまま浴室のドアを開けると。
そこには、玄関横の収納扉の前でちんまり座るブリ男がいました。
そうそう、人間はワタシだけだけど、猫はいましたね。
どうやら、ブリさんが柵を突破してウロウロしていたので、玄関のセンサーが働いて照明が点いたようです。
玄関の前には、ブリさんが三和土に入れないように柵を立てています。

参考:【100均】ダイソーのワイヤーネットで猫のペットフェンスをDIY!
キッチンもテーブルのブリ男の好きなように乗らせているけれど、玄関の三和土だけは断固拒否派のワタシ。
なぜなら外で何を踏んでいるかわからない靴が置いてある場所でゴロゴロして、変な病気を拾ってもらっても困るし、そのままベッドに乗られても嫌だ。
てなことで、ブリさんが来てから「どうして玄関前にドアをつけられるような間取りにしておかなかったかなあ」としみじみと後悔していたのです。
とはいえ100均のやぐい(名古屋弁)フェンスでも、ビビりのブリさん相手には充分でした。
最初の頃こそ柵を蹴倒して向こう側に行こうと試みていましたが、柵を倒すとガッシャーンと派手な音を立てるので、それにビックリして近寄らないようになりました。
自分で近寄らなくても、うっかりなデカい生き物がしばしば柵に何かを引っ掛けて倒してガッシャンあらあらとやっているので、それを見ては「ああなってはおしまい」と学習しているような節があったのです。
それが先日、ワタシが玄関横の物置の扉を開けてゴミの整理をしているときに興味津々で眺めていたと思えば。
アイツが長風呂している間に探検したろ、とばかりに悪いことを考えて。
痩せた今となっては柵を蹴倒す必要もなく、少しの隙間に鼻面を突っ込んでするりと抜ければよいと気づき。
誤算といえば人感センサーに猫も反応するとは知らず、さっさとデカい生き物に気づかれてしまったことくらいでしょう。
まさか今更ブリさんが三和土に関心を示すとは予想外です。
風呂を出て慌ててブリさんをとっ捕まえ、シャンプーシートでごしごし拭きました。
不満そうに「んあっ!」とか言っていたブリさん、これくらいではめげません。
一度我が領土と認定した場所には是が非でも入り込みたいタイプです。
その夜は、デカい生き物が見ていない隙にまたしても柵の方へ行き、「そっちはダメですよ」とデカい生き物に捕まって戻され、でも折りを見てはまた柵に向かい、首尾よく隙間を開け、きゅるんとした顔で物置の扉の前で座って「ほほう…」という表情をするところをデカい生き物に見つかる、という攻防戦を繰り広げました。
これはお母さんは譲れませんよ!
ということで、久しぶりにシャーッ!! と猫式の威嚇をし、玄関から部屋に連れ戻してシャンプーシートでごしごしの刑です。
ワタシがシャーを繰り出すのは久しぶりです。
最後に出したのはいつだっけなあ。ブリさんが仔猫のときは危ないことをしたときはシャーシャーして、なんならブリさんを仰向けにしてお腹に噛みつく真似とかしたものだけど。
大人になってからのブリさんは聞き分けがいい子で、「ダメよ」と言われたらやっちゃいけないことだと理解します。
なのでワタシが食べているパンを虎視眈々と狙う顔をしても「ダーメ」と言うと「ちぇっ」という顔をして諦めます。
なのでシャーの出番はずっとなかったのでした。
それが久しぶりのシャーッ!! なものですからブリ男もビビったようで、姿勢を低くして目を黒々とさせていました。
ワタシのシャーもまだ有効なんだ、ということに気づいて、ちょっと面白かったです。
さすがにその後は諦めたようで、柵の向こうに執着する様子は見せていません。
……いや、見せていないだけで内心は狙っているかも。
病気をしてからは体調が悪いときに浴室に篭れるようにと、留守番中も三和土ギリギリに柵を置いていましたが、三和土のことを思い出さないように柵の位置をブリさんのトイレまで戻しました。
結果的にブリ男の領土は縮小したわけです。
にしても、この歳になって、しかも病気をしてからも好奇心と野望を失わないブリさんに、甚く感心しました。
ブリたるものこうあるべき、とシャンプーシートで拭かれたばかりで真っ白の胸毛が誇り高く輝いています。
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