正しい食生活と、堕落した食習慣との狭間で

あれは小学校1年生のとき。

何の授業か忘れたけど、「どんなことを考えて献立を決めているか、お母さんに訊いてくる」という宿題が出ました。

Junk Food

現代では「献立を決めて調理をするのはお母さんだけではない!」とクレームがつきそうなお題ですが、昭和末期のその頃はまだ専業主婦も多く、家事をするのはお母さんという風潮だったのです。
我が家もこと料理に関しては100パーセント母のテリトリーでしたから、そのまま母にインタビューしたのでした。

母から返ってきたのは「栄養が偏らないように」でした。

6歳だか7歳だかのワタシは「えっ、なんか…地味だな」と肩透かしを食らったような気分になったことを覚えています。
ほんのりとした落胆というか、モヤモヤするというか。
「偏る」という、人生始まってまだ数年の人間同士のお喋りでは頻繁に出てこない単語の硬さに戸惑うというか。
「そうなんだ、嬉しい! ありがとう!」と母に即答できなかったしこりを残したまま、母の言葉をノートに書き記したのでした。

モヤモヤの正体は、翌日の授業中に何となくわかりました。

クラスの児童達がお母さんに聞いたことを次々と発表していきます。
「子どもの好きなものを」
「彩りよく」
「給食と重ならないように」

ワタシが感じたモヤモヤは、母からの回答には子どもを楽しませようという視点がなかったせいかもしれません。
好物をお腹いっぱいに、楽しく飽きないように、クラスメイトのお母さん達はそんなことを考えてくれるんだ。と、ちょっと羨ましくなりました。

発表する番が回ってきて、ワタシは立ち上がって「栄養が偏らないように」と母から聞いた言葉をそのまま語りました。

一瞬、しーんとなる教室。
昨日のワタシのように「えっ、なんか…」という空気になる児童達。
ほかの子の回答には「わあ、いいね!」という雰囲気だったのに、ワタシの番だけ「お、おう…」と微妙な反応です。

ワタシの回答に教師はどうコメントしたか、あまり覚えていません。
「大事なことだね」とかなんとか、ポジティブなことを言っていたように思います。
が、クラスメイトは「そっか、大事なことなんだ…?」と、これまた微妙な反応だったような気がします。
なので、うっすら哀しい気持ちになって椅子に座った記憶があります。

 

子どもの頃のワタシは母の配慮を理解できなかったのですが、大学を卒業して独立してみると、栄養バランスを整えるのがいかに手間がかかるのか痛感しました。
専業主婦ならともかく母もフルタイムで働いていて、仕事を終えてスーパーでどっさり食材を買い込み、時間をかけて一汁三菜をもりもり作り、当時は食洗機なんてなかったから大量の調理器具と山盛りの食器をガンガン洗う、というのを繰り返していたわけです。

若い頃のワタシは平日に自炊とかとんでもないという長時間労働で、3食外食が当たり前でした。
外食続きだと気をつけていても野菜や果物が不足するし、脂質糖質が多めになる。
「栄養が偏らないように」が最優先事項になる母の思いが、今ならわかる。油断していると栄養バランスはガラガラと崩れていく…。

と、十数年経ってようやく母の有難みに気づいたのでした。

そしてそこから更に20年も経た今、なぜこんなことを書いているかというと、暑くてアイスばかり食べて口内炎ができたからです。
いい歳して何やってるんだか。

 

今になって思うと、幼児期のワタシはよく食べる子どもで、その一方で好き嫌いもあったから、母が「子どもがいっぱい食べるように」よりも栄養の偏りを気にするようになったのは当然だよねーというカンジです。
母が作る食事は品数も量も豊富で、しかも美味しく、楽しかったのですが、ワタシが嫌いな食材も必ずありました。んで、毎食「トマトもちゃんと食べなさい」なんて叱られながら食べたものです。

おかげで今となっては「嫌い」というほどの食材や食べ物はなくて、せいぜい「出されたら何の問題もなく食べるけど、自分で買ってまでは食べない」程度です。
(高級フルーツなんかも「出されたら食べるけど、買わない」に該当するけど。)

海外旅行で食習慣が日本とまったく異なる国に行っても「へー、珍しい」とバクバク食べて、保守的な友人をドン引きさせる能力がついたのも母のおかげ。

投稿者:

りんむじんづ

20代で購入したマンションは、無事にローンを完済したかと思ったら売り払い、30代でまたまたマンションを買いました。好物はマンションの間取り図。旅とグルメにも目がありません。ブリティッシュショートヘアの男子(ブリ男)との同居を始め、ますます極楽な生活を送っています。

2 thoughts on “正しい食生活と、堕落した食習慣との狭間で”

  1. 「栄養が偏らないように」の中には当然、「給食と重ならないように」も入ってるんですよね。
    「いろんな食材を食べてくれるように美味しく調理する」も入ってる。
    好き嫌いが多くて食が細い子やったら、「何でもいいから好きなものを食べさせる」って選択肢になる。
    でもよく食べてくれる子やったら、特定のものを食べ過ぎないように、栄養が偏らないように…てなりますよね。

    ちなみに私は、よく食べる子だったですけど好き嫌いもかなり多いです。
    今となっては3食用意してくれていただけでも有難いと思うけど、りんむさんのお母さまがちょっと羨ましいですね。
    「絶対に食べられない」ものがあるより、好みはあるけど何でも食べられるよ?のほうがやっぱり楽しいと思うもん。

    1. ひまわりサマ
      そうなんですよ。子どもの頃は「ワタシの楽しさは後回しか…」と勘違いしたのですが、充分楽しんでモリモリ食べてる子相手なら「いい栄養バランスを…」となりますよね。
      母の料理の味も何とも思ってなかったのですけど、合宿所のゴハンをワタシは美味しくないなーと感じてたのが周りは美味しい美味しいと言っていて、おかーさんのゴハンは美味しかったのか! と、今回書いた頃の数年後に気づきました。
      独立した後は、実家で食べさせてもらう度に半泣きで美味しい〜〜ですわ笑
      毎日たゆまなく、美味しいゴハン、そして嫌いな食材も躊躇なく出してくれた母と、お腹いっぱい食べられるだけ稼いでくれた父に感謝です。

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